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神戸地方裁判所姫路支部 昭和33年(ワ)365号 判決

原告 姫路市

被告 須鎗友市 外三名

主文

被告須鎗友市及び同須鎗福造は原告に対し別紙目録第一記載の建物を明渡せ。

被告国土開発株式会社及び同須鎗商事株式会社は原告に対し別紙目録第二記載の建物を明渡せ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は第一項については原告において被告須鎗友市のため金十万円、被告須鎗福造のため金五万円の各担保を供するとき、第二項については無条件で仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一ないし第三項同旨並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、別紙目録第一及び第二記載の建物は更生会社須鎗株式会社(更生管財人安平康)の所有であつたが、原告は昭和三三年三月三一日更生管財人から他の土地建物と共に買受契約をなし、同年四月二五日その所有権移転登記手続をなした。

二、被告友市は当時別紙目録第一記載の建物に居住していたものであるところ、更生管財人は同年六月三〇日限り右建物から右被告を立ち退かしめ、明渡すと約束していたものであるが、右被告はこれを明渡さないのみか、同年八月ごろより被告福造も又右家屋に表札を掲げて無断居住し、両被告が共に占有するに至つた。よつて原告は右被告等に対し所有権に基づいて右家屋の明渡しを求めるものである。

三、被告国土開発株式会社及び同須鎗商事株式会社は別紙目録第二記載の建物につき何ら占有すべき権利がないのに、原告が所有権を取得後、その表に看板を掲げ、事務員と称する者を右建物に出入させてこれを不法に占拠しているものである。よつて原告は昭和三三年御庁に対し明渡し断行の仮処分を申請し、その決定を得て同年九月一二日これを執行したものであるが、これ亦所有権に基づいてその明渡を求めるものである。

と述べ、被告の抗弁事実を否認し、

一、更生会社須鎗株式会社の更生管財人が本件建物等の売却予想額三千万円の半額金千五百万円で原告に売却することとし、同管財人より御庁に対し財産売却許可願を為し御庁の売却許可を受けて正式に昭和三三年三月三一日売買契約が成立したものである。

従つて本件売買は更生管財人の正規の職務執行と裁判所の正当な裁量権限に基く売却許可決定に基き正当になされた売買であり、右売買契約には何らの瑕疵も存しないものである。

二、本件建物の当初の売却予想額と現実の換価処分額とは異るが、これは更生計画の変更と称すべきものでなく、従つて債権者たる国の同意ないし内諾を要しないものである。

と抗争し、

立証として、甲第一ないし第六号証を提出した。

被告等訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告負担とする。との判決を求め、

答弁として、

一、本件建物が原告の所有であることを争う。即ち本件建物は更生会社須鎗株式会社の所有であつて原告の所有ではない。

二、原告が更生管財人から本件建物を買受けた手続は違法があり従つて右売買は無効である。即ち右売買は更生会社須鎗株式会社の当初の更生計画に基いて行われたものでなく、更生計画の売却金額の約半額で売却せられており、その更生計画変更について御庁の許可を得るに当り裁判所を錯誤に陥れて許可を得ているものである。即ち更生会社須鎗株式会社に対して金六五〇万円の巨額の債権を有する国について更生計画変更の承諾を得べきに拘らずその承諾を得ず、内諾も無いのに内諾を得たとの虚偽の文書を原告より更生管財人に提出し、これにより管財人が御庁の許可を得たものである。仮りに内諾に類することがあつたとしても、これを裏付ける人はその主務省たる通産省に無いことは度々被告須鎗友市において確めており、係官としては原告の行為に憤慨しているのである。

右事実は明かに裁判官を錯誤に陥れて得たる更生計画変更の許可であるから本件売買契約は無効であり、従つて本訴請求は失当である。

と述べ、甲第四号証は不知、その余の甲号各証の成立を認める。

と述べた。

理由

成立につき争のない甲第一ないし第三号証によれば、別紙目録第一及び第二記載の建物(以下本件建物と略称する)はもと更生会社須鎗株式会社の所有であつたが、右更生会社の更生管財人安平康と原告との間に本件建物(及びその他の不動産)につき昭和三三年三月三一日代金千五百万円で売買契約が締結せられ、これに基いて原告のために昭和三三年四月二五日所有権移転登記手続のなされていることが認められる。

従つて他に特段の事由のない限り原告は右売買に基いて本件建物の所有権を取得したものとみるべきである。ところで被告等は右売買手続には瑕疵があり無効なる旨主張するので考察するに、成立につき争のない甲第五、六号証を総合すれば、更生会社須鎗株式会社の更生計画案では本件建物(及びその他の不動産を含めて)の当初の売却予想額を金三千万円と見積つてその認可を受けたものであるけれども、本件不動産の立地条件等により到底右金額で売却できないことが判明し、更生管財人であつた安平康の尽力により漸く買手を見付けたが、それは姫路市であり、しかも代金は千五百万円を限度とするものであつた。それで更生管財人から当裁判所にその事情を述べて右価額で姫路市に売却することにつき許可を得たものであることが認められる。而して更生会社の更生計画における売却予想額はあくまでも予想額であつてその変更は更正計画の変更と目すべきものではないから更生債権者等の同意を必要としないわけである。只本件のように予想額と現実の売買代金額の差が大きいときは更生計画の遂行上、大口債権者の諒解を得ておくことが便宜であるに止る。従つて被告等主張の国の内諾のなかつたことは本件売買契約を無効ならしめるものではない。よつて被告等のこの点に関する見解は当裁判所の採用しないところである。

而して被告等が夫々本件建物のうち原告主張の建物を占有していることは明にこれを争わないからこれを自白したものとみなす。してみれば被告等において原告に対し各右占有につき正当権原の存在を主張立証しない本件においては所有者たる原告に対し本件建物を明渡す義務あることはいうまでもない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を夫々適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 庄田秀麿)

目録

第一、姫路市山野井町字宮根八六番地上

家屋番号同所八五番

木造瓦葺二階建 居宅一棟 建坪 五七坪二五

外二階坪 九坪五〇

附属建物

木造瓦葺二階建 倉庫一棟 建坪 七坪

外二階坪 七坪

木造瓦葺平家建 炊事場・便所一棟 建坪 二三坪七五

第二、姫路市山野井町字宮根八六番、八七番地上

家屋番号同所八七番

附属建物

木造瓦葺二階建(現況、陸屋根造、洋館建)

居宅一棟 建坪 一八坪八七

外二階坪 一八坪八七

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